pitti2210の日記

続くとは思えない

宮崎駿の「君たちはどう生きるか」についてのネタバレのない感想と、ネタバレを気にしない感想

昨夜は宮崎駿の『君たちはどう生きるか』を観てきて、今朝から今にかけてずーっとそのことを考えていてまるで夢の中にいるような一日だった。雨が降っていたので気分は上がらず、やることもそこまで多くなかったのもあるが、一日中頭の片隅では作品のことを考えていたと思う。

 

まずはネタバレ無しの感想を。

滅茶苦茶楽しかったです。最後に泣きました。

事前に公開されたものがポスター一枚だったので、twitterを含めあらゆる予想が展開されていたし、僕もいろいろ想像を巡らせていたもののまったく当たらなかった。現在80歳という年齢で6年という時間をかけたことを考えると長編作品としての引退作品と考えるのはごく自然なのだけど、「この人ならまたなんか作れちゃうのでは?」「絵コンテだけですごいもの作れちゃうんじゃね?」という凄みがあった。最終作という感じが全然しない、あまりに新境地で本当にびっくりした。

ネットの感想を見ていると賛否が分かれるというか、混乱している人を多く見かけるけど、あくまで僕にとってはわかりやすい作品でした。人によって受け止め方が変わると思うけど、でもそれ以上にアニメーションの楽しさと美しさと怖さが詰まっていて、退屈することはないと思う。パンフレットが発売されたらもう一度観に行こうと思ってます。

 

次はネタバレを気にしない感想を書きます。まだ観ていない人、気になる人はここでやめていただけるとありがたいです。

僕にとってこの作品がわかりやすいと思ったのは、テーマが明快だったからだ。テーマは「母親との別れと再会」「継母を母として認めること」「生きることを選ぶこと」だと思う。

舞台は戦中の日本。主人公の眞人は母親を失った。父親は眞人の母の妹を娶り(ソロレート婚というらしい。家と家の関係を維持するためにあったらしい)すでに子供が産まれようとしている。しかし眞人はその現実を表面的には受け入れつつも、心の底では葛藤している。そんな中、奇天烈なアオサギに導かれて眞人は奇妙な世界を旅する。帰還後、彼は現実を受け入れ、継母を受け入れる。

ただただそれだけの話だ。もちろん釈然としない部分とか不思議な要素はふんだんに詰まっているが基本はわかりやすい。

だけどその過程となる奇妙な世界も、そして舞台となる戦中の日本も、これまで宮崎駿が描いてきた「ラピュタ」「ナウシカ」「千と千尋」「ハウル」「ポニョ」「風立ちぬ」といったあらゆる作品の要素が詰まっていた。だから宮崎駿が本当の意味で帰ってきたと思ったし、この年齢であってもこれほどまでに挑戦ができることがわかって僕は泣いてしまった。宮崎作品のあらゆる要素が詰まっていながら、同時にこういう形で奇妙な世界を体感させてくれる宮崎作品はなかった。それは宮崎駿自身、もしくはその分身となるような男の子が主人公であったことが大きいと思う。

見ている最中からずっと思っていたのだけど、物語としての作りが村上春樹の作品に似ていた。「羊をめぐる冒険」とか「海辺のカフカ」とかに近いと思う。僕にとっては「宮崎駿とハードボイルド・ワンダーランド」のような作品で、村上春樹は1949年京都出身、宮崎駿は1941年東京都出身と、全然別のフィールドだけど見てきたものはそう遠くないように思えた。そういう部分も僕にとってこの映画が受け入れやすかった部分だと思う。

 

次から次へとおもしろい映像が物語に沿って提示されて、観ている僕はここではないどこかへ連れ去られる。観た後、「泣いた」とか「がんばろう」とかそういう気持ちもあったけど、それよりも「あの歳になってもまだこんなに凄いものが作れるのか」とそういう気持ちになった。生きていい。生きながらえて良い。人に迷惑をかけてでも、僕はこういう偉大な人の作品を見ていたい。おぞましい欲望かもしれないけど、そんなことを思いました。